『くつがない』

夢を見ていた。
どこか分からないが、バスで向かった湯治宿。
玄関は何十人もの靴が乱雑に並んでいた。

宿の人間の大半が、何かのツアーでバスに乗って出かけるらしい。
自分も行きたかった。
ところが、とにかく、自分の靴が見あたらない。
人はどんどんと出ていって、探すべき靴そのものが減っていって、
いよいよ明らかに自分の靴が無くなっていると分かるようになる。

誰かが間違えて履いていってしまったのか。
あるいは誰かが意地悪して、自分の靴だけを隠してしまったか?

下駄箱の観音扉や引き出しも全部開けてみる。
いくつか靴があるが、やっぱり自分の靴は無い。

とにかく靴がない、靴がないとわめき半狂乱になっていた。
そして何も解決しないまま、目が覚めた。


…目が覚めて、冷静になって思う。
その場には確かに親しい人は一人も居なかったけど、
顔くらいは知っている人が少しは居たんだ。
そして、そのツアーに行かず宿に残っていた。
その理由は聞いた(つまり話はした)。
けど何故か「靴を貸して欲しい」とは言わなかった。

「靴を売っていないか」とも聞かなかった。
たしかに周囲には何も無さそうな場所だったけれども。
たしかに手持ちは少なくて、宿代すら払えなかったかもしれないけど。

知った顔の人にちょっとだけ靴を借りて、
その足でとにかく街へ向かい、
どんなボロ靴でもいいから買ってきて、
その足で銀行か郵便局にでも向かうことは出来たのでは?

ツアーには間に合わないだろうし、
靴は出てこないかもしれないけど。


…そんなことも全く思いつかず、ただただ靴がなくて半狂乱になっていた。
なさけない。

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