『黒人の大統領』

アメリカ大統領選の開票速報を見ていた。
いつもの習慣で、ただ朝の経済番組を見るだけのつもりが、目を離せなくなった。

年老いた黒人の男性が涙していたのにつられ、僕もホロリときた。
その老人が、これまでどれだけ辛い思いをしてきたかも知らないくせに。
でも少しだけ分かった気になって、歴史的瞬間に立ち会う人の中に居る気分になって、
太平洋を挟んだ島国で、涙した。

負けた共和党のマケイン候補の演説も良かった。
選挙戦、批判的な攻撃を繰り返した候補の面影は微塵もなく、
ただ敗者として負けを認め、勝者を賛辞し、次に必要なことを的確に述べていた。
ともすれば、これまで応援してきた支援者への背徳ともとられかねない、敗北宣言。
支持されなかったこと、つまり「自分は正しくなかった」ことを認めることは、
選挙のルールに忠実に従うという「民主主義」と呼ばれるシステムへの敬意だったのかも、などと思う。
近代に例を見ない高い投票率や、投票所の長蛇の列を知れば、なおさらだ。

4年前「目クソと鼻クソのどちらかを選ばなければならないなんて、悲しい国民だなぁ」などと思いながら見ていたのが嘘のよう。
アメリカの底力を見せつけられた感じがした。

…ドラマならここでハッピーエンドとなるところだろうけど、残念ながら現実はそうはいかない。
オバマ支持層の一部は、ほどなく新しい大統領が万能ではないことを思い知らされることになると思う。
でも、その万能ではない大統領を熱狂的に支持して担ぎ上げたのは、ほかならぬ国民自身だ。
そして「だからマケインを選ぶべきだったんだよ」という敗者たちの愚痴は今日、マケイン自身が封じた。

民主主義って本当にすごいと思った。
チャーリー・ウィルソンの気持ちが、少し分かった気がしたよ。

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