『隣人A』

(続き)
もともとは隣に住んでいた。俺が住むより前の話。
その後、少し離れた一戸建に越したのだけど、お母さんの身体も思わしくないので、再びマンション住まいにすることにしたそうだ。
名古屋から来たという前の若い夫妻、慌てて出て行った謎が解けた。

「いやウチ、もう今月で出てっちゃうんですけどね。
ただまぁ親父は今のところ売る気無いみたいなんで、また誰か兄弟が住むかもしれません。
分かりましたら御知らせします。」

こんな込み入った話をする気になるのは、やっぱり所有者同士のせいかな。
いや、もちろん僕は只の親族だけど。

…いや、違うか。
たぶん年寄り同士の会話なんだろう、コレ。
今の若い人は、そんなに周囲に気を配らないもんね。
もちろん俺も、若いときはそうだったような気もする。
もうほとんど覚えてないけど。

引越しを目前にして、こうした隣人を得るというのは、少々皮肉な気もする。
それでも、この部屋には、つくづく長居をしすぎたと思う。

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