『アタマがいい』

その言葉は、昔は嫌いだった。
褒め言葉のつもりで言った人に不機嫌な顔をするので、首をかしげられた。

その頃の僕は、大規模なシステム開発をする職場に居て、コンピュータだけは(当時にしては)異様に詳しかった。
けれどもそれ以外はからきしだめ。社会人2年目で、ようやく人に臆することが減ってきたばかりの頃だったし、服のセンスは皆無だし、貧乏だし不器用だ。決して優れた人間とは思えないし、自分はまだまだ馬鹿だと思っていた。

なにより、そんな言葉を発する人のことを、ずいぶんと思慮が浅く、アタマ悪い人に見えたのだ。

すこし考え方が変わったのは、外務省官僚だった佐藤優の著書を読んでから。
彼は著書の中で「地アタマがいい」という言葉を何度も使う。局面はさまざまだけれども、ひとつ例をあげると
「未知の事象に対する呑み込みが早い」
といった場合かな。詳しくは彼の著書を読んで欲しい。

そして、世の中にはそれが出来る人と出来ない人がいるのだ、と気づくようになった。
決して遺伝では無いと思うけど、どうやって身についたのかは分からない。
幼い頃からプログラミングを学び、ものごとのなりたちについて常に深く考えようとする姿勢は、手助けになったかもしれない。

ともあれ、それが分かってからは「アタマがいいですね」という言葉を不快に思わなくなった。
「コンピュータ詳しいんですね」なんて言葉と同じように、能力のひとつを褒めてもらったと思うようになったのだ。

Tさん、良い褒め言葉をいただきました。今さらですけど、ありがとう。

[1]記事へメール
[2]次  [3]前
[0]目次   [7]コンセプト   [8]あそびかた   [9]QRコード